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悪逆の王

 

 

魔王:
勇者・宰相:

 

 

SE:ギィィ……(扉を開く音

 

勇者「お前が、魔王か……?」

 

魔王「貴様が勇者か。よくぞここまでたどり着いた、とでも言うべきか?」

 

SE:ジャキン(剣を構える

 

勇者「お前を、倒す……!」

 

魔王「ふん、死者のような目をしておきながら、何もかもを消し炭にするほどの熱を持っておる。
勇者よ、それほどまでにこの世界を救いたいか?

この世界はそれほどまでに救うに値するものか?」

 

勇者「世界を救うだとか、そんな大義などもう俺にはない。
俺はもう、前に進むことしかできないんだよ。
お前を殺すためだけに、ここまで来たんだ」

 

魔王「くくく、救世(きゅうせい)などどうでもよいと申すか。
愛する者の屍を越えてきただけはあるな」

 

勇者「っ!!」

 

魔王「確か、リリアという名だったか?」

 

勇者「お前がその名を口にするなっ!!」

 

魔王「おぉ、怖い怖い。そのような姿をギルバートが見れば、何と言うだろうなぁ?
シャルティナなど今の貴様を見ても、誰か分からぬのではないか?」

 

勇者「お前が……、お前がっ!!」

 

魔王「なんだ? 貴様は仲間が死ぬかもしれないという覚悟も持たず、旅をしてきたのか?
そのへんの新兵と何ら変わらぬではないか。
いや、新兵ならば死線をくぐれば変わるもの。
なまじ力を持っているだけに、成長することすらなくここまで来たというのか。
くはは、そんなもの自分の思い通りにならなければ泣き喚くガキではないか」

 

勇者「もう、それ以上何も口にするな……!」

 

魔王「都合の悪い言葉は聞きたくないか? だから、ガキだと言うのよ」

 

勇者「斬るっ!!」

 

SE:ザシュ!

 

魔王「例えばな……」

 

勇者「オークがなぜここに!?」

 

魔王「こうして我の身代わりに貴様に殺されたこのオークはな、
2週間前に初めて子をその腕に抱いたばかりのものだ」

 

勇者「っ!! だから、なんだ!!」

 

魔王「我らとて、つがいとなり、子をなし、家族を持つのだ。
さて、貴様らはどれだけの同胞を殺してきただろうな?
どれだけの家族を根絶やしにしてきたのだろうなぁ?」

 

勇者「……お前たちも、お前たち魔物もしてきたことだろう!」

 

魔王「あぁ、そうだとも。お前が愛したリリアも、仲間だったギルバートもシャルティナも殺したのは我々だ。
さて、勇者よ、ひとつ尋ねたいことがある。正義とはなんだ? 」

 

勇者「せ、正義……だと?」

 

魔王「なんだ? 勇者とは正義の使者と呼ばれているのだろう?
ならば、教えてくれ。正義とはなんだ?
大切なものを失い、がらんどうとなっても答えられるだろう?
それとも、こんな簡単なことすら分からずにここまで来たのか? 勇者よ。
いや、正義の使者よ」

 

勇者「正義とは……、正義とは……」

 

魔王「答えられぬか? ならば、代わりに我が答えよう。
正義なんてものはな、ただの都合の良い言葉だ。
正義とうたえば、何千何万の命を奪おうともまかり通る。
ただの暴力だとしてもな」

 

勇者「ち、違う!」

 

魔王「いいや、違わない。そして、貴様らに正義があるように、我らにも正義がある。
何千何万という同胞が貴様たち人間に殺されてきた我らにも。
そして、我らの正義を胸に我が息子も貴様に立ち向かった。
結局、貴様に殺されたがな……」

 

勇者「あ……、ぅぁ……」

 

魔王「部下からの報告で息子がどのように殺されたかも分かっている。
ベリア砦にて、子供のように泣き喚く勇者に死んでなお何度も何度も剣を突き立てられたとな」

 

勇者「……ベリア、砦? まさか……」

 

魔王「息子は貴様にやられはしたが、ただでやられることはなかった。
貴様の仲間たちを道連れにしたからな」

 

勇者「お前の息子が、リリアを……。ギルバートとシャルティナを!!」

 

魔王「そうだ。そして、我は貴様に息子を殺された。
さあ、勇者よ、正義とはなんだ? 正義のためならば何をしてもかまわないのか?
大切なものを奪い合ってもかまわないのか?」

 

勇者「正義とは……、正義とはただの血なまぐさい殺し合いを隠すための、言葉……なのか?」

 

魔王「我はそれを知っていて尚、正義という言葉を使うがな。
国の存続のため、民を騙すためにな。
貴様らの王もそんなことはもちろん分かっていると我は思うぞ?」

 

勇者「そ、そんな……」

 

魔王「勇者などと担がれて気付かなかったか?
そもそも人間と魔物の戦いを勇者にすべてを委ねるなど愚の骨頂ではないか。
貴様が我を討つことができなければ、次の勇者を見繕うのではないか?」

 

勇者「……俺は騙されたのか……?」

 

魔王「もしも、貴様が我を討ったとしよう。
そんな強大な力を持つ貴様をそのままにしておくと思うか?
自らが戦場に立つこともせぬ臆病者どもが。
いや、やもすると、すでに何かしら手を打っておるやもしれんな?
生まれ故郷を抑えるか、なにかしら呪われたアイテムを貴様を騙して渡したとかな」

 

勇者「やめろ、やめてくれ……」

 

魔王「または、ここで貴様が傷を負って腕の一本でも失い、帰国したとしよう。
奴らは何と言うだろうなあ? 仲間を見殺しにしてむざむざ帰ってきたのか、といったところか。
それとも、貴様を勇者の偽物だったとして始末し、新たな勇者を担ぎ上げるかのう。
いやはや、まるで鉄砲玉のような扱いだな、勇者というものは」

 

勇者「やめろおおおおお!!!!」

 

SE:ギィン!!

 

魔王「いいや、やめぬよ。
さあ、勇者よ、世界を救うという大義を失った勇者よ!
今一度我が貴様に大義を与えてやる」

 

勇者「戯言を! そうだ、すべて戯言でしかない!!
お前が俺を騙そうとしているだけだ!!」

 

魔王「ほう、これを見てもなお、そう言えるか?」

 

勇者「その紙束は……?」

 

魔王「貴様らの世界の王達や大司教らからの嘆願書よ。
自分だけは助けてくれと言ってな、大量の金品と共に何度も送られてくるのだ」

 

勇者「……は?」

 

魔王「シェイン国、カルティナ神聖国、バルド共和国。
おぉ、貴様を送り出したカーマイン国からももちろん来ているぞ。
確か、王の名はヨハネスと言ったか? おぉ、そうだ。ここに書いてあった」

 

勇者「……ヨハネス様が……?」

 

魔王「勇者よ、世界を救うという大義を失い、がらんどうになったというのなら、
世界を滅ぼすという大義はどうだ?
このような奴らを救うために貴様は愛する者と仲間を失ったのだぞ?
我は貴様の力を評価している。息子を殺した相手であってもな。
どうだ? 我と共に来ぬか?」

 

勇者「うぁ、あぁぁぁ……」

 

魔王「そういえば、リリアの父親であるキール侯爵からも嘆願書は出ていたなぁ」

 

勇者「あああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 

 

 

宰相「お見事な采配でした」

 

魔王「なに、ガキを騙すなど造作もないことよ」

 

宰相「にしても、勇者を帰してもよかったのですか?
我が軍に加えるものだと思っていたのですが」

 

魔王「奴は最初から最後まで鉄砲玉よ。
人間国の王達を殺してくると言って去っていった」

 

宰相「なるほど。そして、その隙に我らが攻め入るという算段ですね」

 

魔王「いや、その必要はない」

 

宰相「は?」

 

魔王「勇者が人間国の王達を殺すことに成功しても失敗しても、
もう我らが無理に攻め入ることはないといったのよ」

 

宰相「どういうことですか?」

 

魔王「人間国は共通の敵である我らを討つために、一時的に協力しているだけだ。
例えば、勇者がシェイン国王の暗殺に成功したとしよう。
我らの影はない。ならば、疑うのは身内だ。隣国がこの隙に刺客を送ったと勘繰るわけよ。
逆に勇者が暗殺に失敗したとしよう。ならば、疑われるのは勇者を送り出したカーマイン国となるわけだ。
じきに人間どもの間で内ゲバが始まるだろうさ」

 

宰相「な、なるほど……」

 

魔王「そして、そうだな、二か月後くらいか。
その時にこの書状を人間国の各国に送るのよ」

 

宰相「なんと、書かれてあるので?」

 

魔王「なぁに、我らと貴国で世界を治めようといったような内容だ。
さらに、我らの助力が欲しければ、金を出せといった具合だな」

 

宰相「つまり、我らは一切手だしすることなく、各国から大金を得ることが出来ると……」

 

魔王「同じ内容の書状が他国にも送られていると奴らに確認する方法はないからな。
金を絞りつくし、軍事力を互いに疲弊させ、搾りかすになったところで、人間国を一気に制圧する。
これで世界は我らのものだ」

 

宰相「流石でございます」

 

魔王「ふん、我を誰だと思っている?

我は、悪逆の王ぞ」

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