top of page

真夜中の海に星が浮かんでいる。

君の手を取って、砂浜を歩いた日のことを覚えてるかな。

「必ず、迎えに来るから」

あの日から10年、君の手のぬくもりもこの景色も何も変わらないね。

 

 

ディスプレイ越しの恋をした。

笑顔を見ることはできないけど、笑い声が子供っぽくて。

別れの時、『5年後のあなたの誕生日に会いに行くね』 と君は言った。

30歳の俺の前に、20歳の君がいた。

 

 

 

子供の頃から、特になにかに苦労したことはなかった。

だから、自分は将来、なろうと思えばなんにでもなれるものだと思っていた。

大学に落ちるまでは。

なあ、このディスプレイに映っているのは、本当に俺なのか?

 

 

『ごめん、ちょっと遅れそう』

「ううん、私、待てる女だから。ゆっくりでいいよ」

『もうすぐそっちに着くけど、会ったらどうされたい?』

「何十年も待ったんだから、力いっぱい抱きしめて欲しいな」

 

 

結婚は人生の墓場だとよく言われる。

今、こんなにも幸せなのにと、夜な夜な不安にかられる。

その不安を抑えきれなくて、私は結婚式前夜、あの人を殺してしまった。

だって、そうすれば、ずっと幸せでいられるんでしょ?

 

 

 

 

『あなたは幸せになるの』

今にも病で死にそうな僕に、母さんは言った。

『もう痛みに苦しむこともなくなる。こんな世界、生きる価値なんてないんだから』

じゃあ、どうしてそんな世界に僕を産んだの?

 

 

 

 

ある日、自殺しようとしたら死神が現れた。

『お前みたいな笑わない奴の魂なんていらん』

腹が立ったので、思いとどまり、その日から笑みを絶やさないようにした。

50年後、笑いながら僕は死んだ。

 

 

 

 

『ねえ、どうして夕焼けは赤いの?』

「それは、お日さまがお月さまのことを好きだからよ」

「お月さまが見えてくると、恥ずかしくて真っ赤になっちゃの」

『あ~! だから、すぐにお日さまかくれちゃうんだね!』

 

 

 

 

海で君と交わした初めてのキスは、少ししょっぱかった。

君が料理を失敗した時のキスも、少ししょっぱかった。

別れの時、無理やり奪ったキスも、少ししょっぱかった。

君との思い出は、こんなに甘いのに。

 

 

男のような女と女のような男がいた。

二人はあべこべなまま付き合い始めた。

男のような女が女のような男の子供を身ごもった。

子供が生まれたその瞬間だけは、女は母の微笑を浮かべ、男は父の涙を流した。

 

 

 

あるところに、嘘しかつけない呪いをかけられた男がいました。

男の住む村の皆は、彼が呪いで嘘しか言えないことを知っていました。

ある日、呪いは解かれ、男は今までのことを村の皆に謝ろうと思いました。

ですが、なんと言えば伝わるのか分からず、泣くことしか出来ませんでした。

 

 

頭をたれるように貴方からの縄を待つ。

まるで背後から闇に喰われるように、体が束縛されていく。

嗜虐も被虐もお互い持ち合わせてはいない。

あるのは、臆病だからこそ縄に縋る、不器用な愛だけ。

 

 

旦那と連れ添って10年以上経つが、愛してるなんて言われたことがない。

誕生日や結婚記念日にプレゼントをもらったこともない。

そのくせ、『お月見をしよう』と毎年団子は買ってくる。

全部分かってるから、ずっと貴方といられるんですよ?

 

 

 

 

 

嘘だっていいから、好きだと言ってほしかった。

「さよなら」なんて言うくちびるを塞いでしまいたかった。

冬の雨なら全身を凍えさせる冷たさに乗せて、思うがままに泣きわめけるのに、

夏の雨は温かくて、叫ぶことすら許してくれなかった。

 

 

 

ある所にお酒の大好きな男がいました。

男の嫁は、毎日、お酒のすすむおいしいおつまみを作り続けました。

3年後、男は肝臓を悪くし、死んでしまいました。

女は夫を愛しておりませんでした。

 

 

今、僕の手には拳銃がある。

勇気という弾丸を込めて。

臆病な心を抑え込んで。

実弾を頭にぶち込んだ。

 

 

私は彼の心を読むことができる。

だから、相手がどれだけ自分のことを愛してくれているか知ることができる。安心することができる。

でも、いつの日か、もしかしたら、彼が私以外の子に恋をするかもしれない。

その時、私は彼の心を信じずに、彼の言葉を信じてしまうのだろう。

 

 

 

 

知ってる?

手と手を合わせて幸せって、本当のことなんだよ?

皆、少し勘違いしてるんだけなんだよ。

だって、大切な人と手を合わせないといけないんだから。

 

 

 

 

人の嘘を食べる悪魔がいました。

彼は普通の嘘には見向きもしないで、優しい嘘ばかりを食べていました。

他の悪魔が「なぜ、優しい嘘ばかりを食べるのか」と尋ねました。

彼は『優しい嘘の裏側には、嘘だと思いたくなるような辛い真実が隠れているものさ』と嘲笑って答えました。

 

 

 

 

きれいになりたいと、彼女は言った。 

痩せるにつれ、周囲の男の視線を集めるようになった。 

もっときれいになりたいのと、彼女は言った。 

腕の中で泣く彼女の背は、蛇腹のように波打っていた。

bottom of page